▼天声人誤

●脱

「脱」のつく単語は色々とある。

脱獄:獄中からシャバに逃げ出す行為を言う。獄中とは刑務所やブタ箱のことであり地獄ではない。地獄から脱獄する場合は生き返ることになる。また病院や学校、寮などからシャバに逃げ出す場合に使われることもある。

脱走:脱獄する途中で走るのが脱走だ。大脱走は大勢で脱走すること。少人数で脱走する小脱走のほうが見つかりにくい。脱走は人間以外のものに対しても使われる。ザルから豆が脱走する、というような場合だ。しかしこれは豆が意志を持って脱走したのではなく、ザルに豆を入れて洗っていた人間の不注意によってこぼれ落ちた事態を豆のせいにしようとする人間の一方的な責任転換である。

脱出:元いた場所が爆発炎上したりして、そのままいると死んでしまうような所から逃げ出す場合によく使われる。しかし教室から脱出する、というように生命には関係ない場合にも使われる。脱走だと罪悪感があるのだが、脱出だと授業や教師に問題があるような印象を与えられるからだ。

脱帽:まいった、とか、恐れ入ったと思ったときに使うのであるが、多くの場合帽子をかぶっていないのにこの言葉を使う。

脱毛:脱帽したときに帽子の内側に毛がくっつき抜けてしまった場合だ。フタの内側にくっついた崎陽軒の「減るシュウマイ」のようなものだ。

脱線:列車の車輪が線路から外れてしまうこと。走行中に脱線すると車輪は枕木の上をガタガタと通過するのでひどく乗り心地が悪くなるので運転手も乗客もすぐに脱線したことに気づくのではあるが、話が脱線した場合には気がつかないこともある。

脱輪:列車は脱線するが、クルマは脱輪する。脱輪した場所がU字溝と崖の場合では緊迫感が大きく異なる。

脱稿:脱稿したと思っても、多くの場合推敲が必要になる。

脱肛:脱肛したと思ったら、多くの場合治療が必要になる。

脱腸:脱肛と似たような物だが病名としては脱肛より恥ずかしい。

脱字:書こうと思っていたにもかかわらず書き忘れてしまった文字のこと。誤字は発見されやすいが脱字は発見されずに単に国語力が低いと思われるので気をつけよう。

脱サラ:解雇されたときに使う言葉。

脱力感:仕事をしたくない時に使う言葉。

脱落:先頭集団から脱落すると言うが、先頭集団が相対的に速いだけであって、本当に脱落したわけではない。

脱脂綿:本当に脱してほしいのは脂よりもウイルスや細菌であるのだが、これらを完全に排除する自信がないので脂を抜いただけで医療用とするのはいかがなものだろうか。

脱脂粉乳:牛乳から乳脂肪分を取り除いてしまった粉なので栄養価は低い。しかしただの粉に比べると栄養価は相当に高いそうだ。

脱兎:脱兎のごとく速く走るクルマがダットサンだそうだ。

脱皮:痩せ細ったお母さんとから生まれた肥満児を見ると、出産ではなく脱皮だったのではないかと思うこともある。

脱水:二槽式洗濯機の片側が脱水槽だ。中身が少ないと内側の壁にひっついてバランスが崩れたまま狂ったように本体内側に激突しながら回り続ける。

脱税:見つかるまではあまり使われない言葉。

脱臭剤:そのものがけっこう臭いのもある。

脱糞:普通に糞をするのと違うところは出る時の勢いだ。また便が柔らかいときに使うのは適さない。

脱衣:更衣は着替えること。脱衣は脱ぐこと。しかし脱衣場で一度脱いだ服を着ることもある。

脱臼:骨の関節が外れること。肋骨や頭蓋骨は滅多のことでは脱臼しない。

脱北者:北海道や北陸から脱出したときに使われることはないようだ。

脱着:骨の関節を取り付けたり、取り外したりできること。頭蓋骨を脱着するのは難しい。

脱原発:宣言してから実際に廃炉になるまでに30年はかかる。そして核燃料棒の中のウラン238が放射線を出す量が半分になるまでには44億6800万年かかる。気の遠くなる「脱」だ。

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