▼天声人誤

●夢

夢を映像化しようとする試みは色々と行われてきたのだが、これが完全に成功したという例はない。一般的には非常に曖昧で一貫性の無い夢というものを客観的に見て辻褄の合う一定のルールに基づいた映像にするのは難しいとされてきたが、基本的には一人の人間の脳の中というクローズドな世界で展開されるものなので、その一人の脳の中の情報を漏れなく抽出することができれば、理論的にはそれほど難しいことではない、というのが曽根山工科大学映像心理学研究室の棚網教授の考えであった。

ということで棚網教授は早速実験に取りかかった。研究室の学生に徹夜でレポートを書かせ、極度な寝不足のまま研究室に呼び出しレーポートをベタ誉めしたあと研究室内のソファーで仮眠するように指示した。予め夢の映像化の実験をする旨を実験台の学生に説明しておくと、心理的影響が実験結果に及ぶのを回避するためであった。

学生が熟睡したであろうことを確認した後、棚網教授は助手に電話する。助手の研究員2名が機材を満載したラックを転がしながら研究室にそおっと入ってきた。3段式のラックの下段には消音装置付きの発電機、中の段にはコンピュータが3台、上段にはオシロスコープとテスターの先端に超小型マイクロスコープを内蔵した針が数本、それと映像を確認するための小型液晶モニター、その他記録用のコンピュータ周辺機器が数台整然とセットされていた。またラックのパイプ部分には小型のスポットライトが3台取付けられていた。

夢を見るときに生じる脳波は非常に微量であるため、電圧の安定しない部屋の電源は全て落とし発電機から変動の少ない定電圧でコンピュータを動作させる必要があった。夢そのもののストーリー展開が周囲の電流や磁力によって大きく左右されることは予備実験で実証されていたため、電気の他、磁力が影響しそうな室内にあった金属やカーボン系の備品や家具も予め排除しておいた。

助手の一人が廊下にあるブレーカーを落とす。同時に棚網教授が発電機のスイッチを入れると3台のスポットライトが熟睡している学生の頭部を照らし出した。

そして棚網教授が慎重に学生の前頭葉部分にテスターの先端の針を刺す。ぐさっ。「イテテテテテテ!」と叫んで学生が飛び起き、ラックを蹴飛ばし、金属が使えないため、プラスチックのパイプでできたロヂャースで買ってきた1280円のラックは一瞬ヘナっと傾いたと思った次の瞬間にバタっと無惨にも床に倒れ、乗っていた機材一式も先を争うように床に落下し、その大半は見た目に明らかに分かる程度に破損した。

「教授、麻酔とかしたほうが良かったですね。」助手の一人が言う。

「そうだな。次回からはそうしよう。」前頭葉に針を刺したままの学生は針の根元から血を吹き出させながら立ち上がろうとして床に落ちた機材に繋がったままのコードが機材の重みでまた学生をソファーの上に腰から落とした。そのとき針が折れてまた叫ぶ。「ウィテテテテ…」

こうして1回目の実験は全く有効であろう成果を得ることなく失敗に終わったかに思えた。しかし念のためこの時のデータを映像に変換して再生してみると、最初のほんの一瞬ではあるが、画面の中央に大きくカタカナの「イ」の字が映っていた。「教授、これは何ですか?」と助手が尋ねる。「イテテテテのイだな。テまでは映らなかった。」「それは残念でしたね。」

その後棚網教授は考えた。やはりいきなり人間で実験するのはリスクが大きい。まずは動物で実験して基本データを取った後に万全を期して人間で実験したほうが賢明であると。ということで助手に尋ねる。「誰か猿とか飼ってないか?」「大学にはいないんですか?」「医大でも畜産大でもないし猿はいないだろう。」「文化人類学の門木(もんき)先生とかどうですか?」「そうだなぁ、彼は大学の後輩だしイケるかもしれんな。でもなぁ…」「でも何ですか?」「彼は人間だからなぁ。」「いえ、宇宙人に人間と猿の写真を見せた後に門木先生の写真を見せて、『どっちの仲間でしょーか?』って聞けば間違いなく猿の写真のほうを指差します。」「よし分かった。宇宙人の言う通りにしよう。」

というわけで顔がコーネリアスそっくしの文化人類学の門木先生にしこたま酒を飲ませて泥酔させて酩酊状態にしたあと研究室内のソファーで仮眠するように言った。予め夢の映像化の実験をする旨を実験台のコーネリアスそっくしの文化人類学の門木先生に説明しておくと、心理的影響が実験結果に及ぶのを回避するためであった。

そして刺した痛さで睡眠から覚めるのを回避するために針で脳波を検出するのではなく、ファイバースコープで直接脳の表面を撮影することで、その中で繰り広げられる夢の映像をデータとして抽出するという方法に切り替えた。これは前代未聞の画期的トライアルでもあり成功する確率は未知数でもある。助手が棚網教授に尋ねる。「本当に脳の表面を撮影するだけで夢の内容を映すことができるんですか?」「昔見たアニメを思い出したんだよ、ほら、泥棒が犬に追いかけられて家の屋根に登って逃げる。すると犬も屋根に登ってまだ追いかけてくる。すると逃げ場をなくした泥棒はテレビのアンテナに登る。するとその家のテレビに泥棒の映像が映るんだ。」「なるほど!自信が持てました。」

門木先生が泥睡したであろうことを確認した後、棚網教授は助手に電話する。助手の研究員2名が機材を満載したラックを転がしながら研究室にそおっと入ってきた。

3段式のラックの下段には消音装置付きの発電機、中の段にはコンピュータが3台と、ここまでは前回と同じ。そして上段にはファイバースコープに接続された1億万画素のCCD、映像を確認するための小型液晶モニター、その他記録用のコンピュータ周辺機器が数台整然とセットされていた。またラックは若干強度を増してニトリで売っていたお座敷ワゴンラック2980円にバージョンアップさせ、そのパイプ部分には前回同様小型のスポットライトが3台取付けられていた。

助手の一人が廊下にあるブレーカーを落とす。同時に棚網教授が発電機のスイッチを入れると3台のスポットライトが泥睡しているコーネリアスの顔面を照らし出した。そしてもう一人の助手が慎重にコーネリアスの耳にファイバーの先端を入れる。棚網教授はそのファイバースコープから送られてくる映像をモニターで確認する。助手が尋ねる。「教授、これ以上入りません。」「鼓膜に当たってるな。突き破れ。」「はい。」ぶちっ。小さな音が室内に響いたが、コーネリアスはぴくっと動いただけで目覚めることはなかった。

助手はファイバースコープをさらにコーネリアスの耳の中に送り込む。30cmほど入れた。モニターを見ながら棚網教授が言う。「真っ暗だな。」「はい。脳の中に明かりは無いと思います。」「そうか。ミクロの決死圏では明るかったけどな。」「泥酔してるからじゃないんですか?」「そうだな。まあしかしそのほうが夢はよく見えるだろう。」「酔ってると夢が支離滅裂にならないですか?」「一種の毒素が体内で生成されているはずだから良い夢は見ないだろうな。何か、こう、断末魔のような夢になるかもしれん。」「阿鼻叫喚ってやつですか?」「耳鼻咽喉だ。」

しばらくして棚網教授、「何も見えんな。」「このへんにしますか?」「ん?まだ入れ続けていたのか?」「はい。」ラックの上に巻いて置いてあった5mのファイバースコープが残り1mほどになっていた。「まだ夢を見てないようだな。何も映らん。」「ノンレム睡眠なのではないでしょうか。」「あ、止めろ!何か映ったぞ!」「はい!」助手は耳の穴にファイバースコープ送り込んでいた手を止めた。モニターを見ながら棚網教授が言った。「何か部屋の中のような映像だな。ドアと壁のようなものが見えるぞ。」「あっ。ファイバースコープの先っぽが反対の耳から出ています。」

こうして2回目の実験も失敗に終わった。棚網教授は考えた。やはりちゃんとした本物の猿で実験しなければ動物実験にはならない。真面目に猿を捜そう。そう意を決した棚網教授は近所のペットショップに向かった。ところが猿に該当する系のペットは無茶苦茶高かった。ポケットモンキー40万円とかだ。仕方がないのでハツカネズミを買って帰ることにした。動物実験なのだからマウスでも十分なはずでもあるし、何と言ってもハツカネズミは安い。

というわけでハツカネズミを麻酔の代わりに100ボルトの電圧で感電させて気絶させた後、最初と同じようにマイクロスコープを内蔵した針を使用した実験が開始された。

ハツカネズミの耳の穴は小さくファイバースコープを入れるのは億劫そうだったという理由もある。

ハツカネズミは気絶したままカマボコの板の上に仰向けになり輪ゴムでとめられていた。実験機材は1回目と同じだがラックだけは2回目のものだ。3台のスポットライトが気絶しているハツカネズミを照らし出した。そして棚網教授が慎重にハツカネズミの前頭葉部分にテスターの先端の針を刺す。プチッ。

しばらくの間モニターを見ていたが何も映し出されなかった。が、1時間ほどしてから何やら三角形のようなシルエットがぼんやりと画面に現れてきた。助手が言った。「二等辺三角形ですね。」「いや、よく見ろ!」と棚網教授。「底辺が弧になっている。これはチーズだ。」ノイズが多くて眼をこらして見ないと判別しにくいが、そこには確かに雪印6Pチーズのうちの1Pのシルエットが映っていた。

チーズのシルエットは2分ほどで消えて、モニター画面はまたノイズだけの砂嵐状態に戻った。「ハツカネズミだとこの程度の夢しか見ないんですかね?」と助手が言う。「いや、待て。また何か出て来たぞ!」と教授。そう言われて助手もモニター画面をじっと覗き込む。「今度は黒い丸ですね。3つ重なっているようですが。。。」「これはミッキーだろう。」「良く見ると頭の上に白い輪のようなものもありますね。」と言った後、3つの黒い丸と白い輪は画面の上のほうに移動しながらすうっと消えた。その時、もう一人の助手が言った。「教授、ハツカネズミが死にました。」

こうして3度目の実験では夢の映像化に成功し、学内で発表したところ今後の実験に対しての予算も出ることになり、4度目の実験からは待望の猿を使うことになった。麻酔専門の獣医も手伝ってくれることになり、周囲の期待も高まる中、猿を使った実験は3度目の実験の一週間後に行われた。今度は研究室内に学内の教授陣が集まり、大型モニターで猿の夢を観察した。

実験開始から5分後、画面にうっすらと三角形が現れた。教授の一人が言う。「またチーズですかね。猿もチーズが好きなんですか?」棚網教授が説明する。「いや、よく見ると正三角形だ。明らかにネズミの時とは違う。今度は3辺とも円弧になっていて、コーナーもけっこう丸い。」教授陣が一斉にモニターに向かって身を乗り出す。段々と鮮明になってくる三角形は表面がぶつぶつしてきて、その一部は黒い四角形が貼付けられているように見えた。棚網教授が自信を持った表情で言った。「これは握り飯ですね。」「おー。」と他の教授陣から感嘆の声が上がる。

しばらくするとその握り飯の後方に何か赤い棒状のものがばらばらと動いているのが見えてきた。その棒は握り飯の左右に4〜5本ずつあり、それぞれ一番上にある棒は、先端が割れたハサミのような形をしていた。

教授陣が「何だろう?」と思っていたところで棚網教授が言った。「これはカニですな。」「おー、カニかぁ。」と教授陣。その中の一人が尋ねる。「音声は無いんでしょうか?」「あ、はい。ちょっと待ってくださいねぇ。」棚網教授がボリュームを上げると、かすかに声のようなものが聞こえてきた。ノイズが多く何を言っているかは聞き取れなかったが、部分的に「たのむよ〜」とか「だからさ〜」とか言っているように思えた。

棚網教授が説明する。「猿がカニに対して何か交渉しているようですな。」すると教授の一人が「カニのほうの夢も見たいですね。」「いや、それは難しいです。」「どうしてですか?」「カニは目と目の間が空間になっています。つまり脳が無いのです。」「あ、そーか。なるほど。」

猿の夢の映像化に成功した曽根山工科大学映像心理学研究室の棚網教授は、その後も人間を対象とした同様の実験を何度か行ったが、実験を重ねる度に新たな問題がいつくか出てきた。その中でも次の四つが大きな障害となってきた。一つめは「画質」、二つ目は「画角」、三つ目は「タイムライン」、四つ目は「人称」である。

画質については、まずは夢そのものが思った以上に低画質であるということ。そもそも脳主体で進行されるものだけに本人の脳の思い込みが激しく、画質が悪いままでも本人は知らず知らずのうちにストーリーの展開や、そのシーン毎での己の思考や感情や意識を優先するがために画質を蔑ろにしているという事実だ。

ひどいのになると映像は全てモノクロ、音声はモノラル、解像度36dpiである。また、本人が必要とするシーンだけがカラーで、あとはモノクロ。終止音声は無し、などというものもある。中には最初から最後まで、映像全体が半透明であったり、シルエットだけであったり、サンドノイズの微細な変化のみ、などというものさえある。

夢を見ている本人にとっては、その夢自体を第三者に見せて客観的評価を求めるとか、トラックバックを待つとか、そこに広告バナーを設置してアクセス増強を図るとかとかいう性質のものではなく、ひたすら自己中心、自己完結であるため、このようなことになっているのだろう。

当初のハツカメズミの実験時では実験対象の生物が高度になれば、それに比例して夢の画質も鮮明になると期待していたが、結果として人間であってもハツカメズミ以下の低画質な夢を大量に見ていることも分かってきた。

画角に関しても予想以上にいい加減であり、4:3とか16:9とか言う概念は全く無く、見ている本人の都合で丸くなったり四角くなったり、必要な部分だけにフォーカスを当て、他の部分はボカしがかかっていたり、超高圧縮のmpgデータのように極端に簡略化されていたりもする。

また映像がパンしたりズームしたりする度に画角のアウトラインが流動的に変化し、ひどい時には画角そのものの概念を無視したような脳の意識だけに依存したこの世のものとは思えない奇怪な形になり、それがストーリーの進行に呼応しながら次から次へと変形したりもする。

中には終止画角が膨張と収縮を繰り返したり、画角自体があちこちと移動するものもある。タイムラインも非常にいい加減で進行速度が一定でない上、途中のブランクにも極端なバラツキがあり、編集無しでは客観的に視聴できるものにはならない。夢から覚めた後に自分の見た夢を自ら時系列的に整理したくなるというのも、いかにタイムラインがバラついているかという証拠でもあろう。

時間の進行が時速200Kmで飛ばしていることもあれば、時速1kmの止まりそうな速さで進行していることもある、という感じだ。そして急発進したかと思ったら急ブレーキを踏んで減速する。

これを繰り返す場合もあれば、200kmに加速したまま飛ばし続け、最後はそのままの速度でフェードアウトしたりもする。とにかく見ていて非常に「目まぐるしい」ものである。こんなものを毎日見ていて「よく疲れないものだ。」とも思う棚網教授であった。

タイムラインに関する問題は、既に「レム睡眠・ノンレム睡眠」という睡眠中に夢を見る時間帯と見ない時間帯があることが分かっていたので、ある程度は予想できていた。しかしこの予想以上にレム睡眠時の中での変化やバラツキが大きく、さらに脳が認識するストーリーの進行速度にも大きなバラツキがあることも分かってきた。

また予想以上に多くの静止画が使われているということも分かった。タイムラインは進行しているのだが映像は静止画という状況だ。時にこれがスライドショーやフラッシュバックのようなかたちで短時間で差し替わったりすることもある。確かに人間があるシーンをイメージ、回想する場合に、必ずしもそれが「動画」である必要はないわけだ。

逆に動画をイメージしようとすると、それなりに脳のメモリーを消費し、体力も必要となる。同時に夢全体が一つのタイムラインの中で進行しているので、そこに他の動画を入れ子にするということは、全体のタイムラインの流れを部分的に乱す、または不具合を発生させることにもなるのだろう。

例えば都心の雑踏の中である人物に出会うシーンでは、実際に動いているのはその相手の人物だけであり、他の通行人やクルマは止まったままである。しかもエキストラの通行人の多くは同じ色の服を着ていて、遠くのエキストラは顔が無かったりもする。クルマも全て同じ車種で、同じ大きさ、同じアングルである。あたかも同じ画像データを適当に何枚も貼付けたようないい加減なものなのだ。背景のビルには窓はなく、ただのグレーのベタ塗り状態、空には雲もなければ色もない。本来そこにある筈の電柱や店の看板、ガードレールや歩道の敷石などは一切省略されている。画面の全体的な遠近法は無いに等しい。とにかく夢を見ている本人が必要としない部分の手抜きが徹底されているのだ。

いずれにしても現在一般の人が目にしている「映像」と同等のクウォリティを要求するのは基本的には無理なことのようだ。しかし最先端のコンピュータ上での画像処理技術を駆使することで、上記三つの問題は時間をかければ解決できるだろうと思われた。ちょっとずるいが再編集とかリメイクという考え方をすれば解決できるはずだ。しかし四つ目の「人称」については有効な解決策は棚網教授も思いつかなかった。

「人称」の問題とは、映画やテレビの映像ではその映像自体を捉えるカメラという存在が有るのだが、夢の場合にはこれが無い、というか固定していないということである。夢を見ている本人が一人称として見ていたものが、途中から二人称、三人称と優柔不断に変化し、主役であった自分が、いつの間にかナレーターになっていたりもするのだ。

これにはいくらハイテクな機器やアプリケーションであっても的確に処理することは不可能である。同時に、そのままの人称が目まぐるしく変化する映像は、データ化して再生した映像として見るには支離滅裂過ぎてワケが分からなくなる。また「いつ人称が入れ替わった」のかは夢を見ている本人しか分からず(時には本人も分からない)、これを客観的に分からせるようにするのは至難の技である。

なぜ夢の映像がこれだけダイナミックに変化し支離滅裂であるかという問題について棚網教授は一つの仮説を立てた。それは「夢の映像において最も重要なことは『見ていて眠くならない』ことである。」とのことだ。

しかし現実の夢は眠くならないどころか支離滅裂過ぎて全くもって意味不明な映像なのである。

このテーマに挑もうとしたときの棚網教授は、夢でしか見ることのできないシュールな世界、深層心理の中だけで生成されるピュアで芸術性の高い映像を期待していたのだが、それは夢物語であった。

棚網教授は考えた。夢の抽出と映像化には成功した。しかし夢の映像自体がこれほどしょぼいものとは予想していなかった。これは何とかしなければいけない。通常、映像というものは撮影しただけで終わってはいけないものである。その後には必ず編集という作業が伴い、第三者が見て、それなりに面白いと思われるものにしなければいけないのだ。今のままでは、まだ素材を集めることに成功しただけであって、何も料理はしていない。人様に食してもらうようなものに仕上げなければいけない。

さてそうは言っても現状では素材が悪過ぎる。いくら面白く編集しようとしても限界があるだろう。と、いうことで棚網教授は素材の抽出方法から見直すことにした。夢そのものの映像は素材としては劣悪であるが見ている本人はそのことに気がついてはいない。劣悪な画質で満足、納得している。

そう考えてみると、夢を見た本人にその映像を後から見せても、恐らく詳細は覚えていないだろう。もっと言えば「似ている」ものを見せれば気がつかないだろう。夢の記憶は揮発性が高く、見ている本人も見るそばから忘れていくという傾向も強い。つまり夢そのものの映像ではなく、元々高画質な別の「似ている」映像を夢のストーリーにリンクさせて構成していくという考え方である。

具体的には、夢の映像ではなく、夢を見ている時の脳波を正確に検出する。そして予め集めておいた大量のデータベースからこの脳波を参照し、最も近いものを瞬間的に検索して映像として送り出していくというもの。

データベースは沢山の人間に長時間に渡り色々な種類の映像を見せながらその時の脳波を検出する。これを映像と脳波がリンクするかたちでデータベース化しておくというものだ。データベースの元の映像には比較的クウォリティの高いものだけが集めてある。もちろん画角も同じ。フレームレートも一定なので再生速度も変化はしない。

急激な画面変換部分があれば自動的に変換速度を落として見る側がストレスを感じない程度に調整する。これで夢と正確にリンクさえすれば、見るに耐え得る映像が制作できるはずだ。

棚網教授は早速研究室の学生20人にその主旨を説明し、色々な映像を見せながら脳波を検出してデータベースの構築に取りかかった。1ヶ月間に渡り毎日一人2時間ずつ映像を見せる。

映画や環境ビデオ、TV番組など数千種類の映像を何とかデータベース化した。しかしここでも問題が起こった。

試験的に何人かの学生の夢を見ている時の脳波を検出し、データベースと参照してみると、やたらと「秋の京都」が登場するのだ。次に多いのが「国会中継」、その次は「囲碁の時間」というように、どう考えても学生が興味を持っていないであろうジャンルのものが上位を占める。最初は「普段は先進的で衝動的なモノに興味を持っている学生ほど、寝ている時には真面目で余裕のある夢を見ているのではないか。」とも思ったのだが、そうではなかった。

最初のデータベース制作用の映像を見ている時に、例えば「秋の京都」のような退屈な映像が登場したときに、学生は他のことを考えてしまうということが分かった。異性のこと、カネのこと、遊びのこと、友だちのこと等々である。つまり夢に異性のこと、カネのこと、遊びのこと、友だちのこと等々が登場すると、映像は「秋の京都」になってしまうというわけだ。

曽根山工科大学映像心理学研究室の棚網教授は今までの問題点を整理してみた。まず最初に成功した夢の映像化には以下の問題がある。

1.画質音質が極めて劣悪で鑑賞に耐え得るものではない 2.ストーリー展開が支離滅裂で極めて目まぐるしく変化するため鑑賞に耐えうる物ではない 3.人称が夢を見ている人間のその場の都合や思い付きで勝手に変わるので鑑賞している 側はワケがわからない 4.時間が思いのほか短く、時には瞬時にして終了してしまうため鑑賞に値しないものが多い

次に、予め集めておいた大量のデータベースと夢を見ている間の脳波を参照し、最も近いものを瞬間的に検索して映像として送り出していくと方式では、

1.秋の京都の映像が頻繁に登場し、鑑賞するには退屈である 2.切り替わる映像にお互いの関連性が全く無く、鑑賞する側は意味が分からない 3.必要以上に高画質で画角やサイズが統一されているため夢としてのリアリティ−が感じられない 4.広く周知された映画やアニメの場面が登場するためオリジナリティーが感じられない

などの問題があり、いずれも映像として鑑賞しても全く面白くも可笑しくもなく、見ることの意義も全く感じられないものになってしまったということであった。

このような壁にぶち当たった場合には、問題点を1つずつ丹念に潰して打開していくか、もしくは全く切り口の異なるアプローチで再度チャレンジするか、のどちらかになるだろう。。などと棚網教授は考えていたときに一人の男が研究室に入ってきた。

ビジネス映像論が専門の矢羅瀬(やらせ)教授だ。「おや?どうした。いやに深刻な顔をしているようだが。」そこで棚網教授は今までの経緯と現状の問題点をかいつまんで説明した。すると矢羅瀬教授は、「そりゃ当たり前だろ。映像というもんは、そのへんにあるものを素人が適当に撮ったところで見るに耐えるものにはならないよ。逆に既成のものを使うと奇麗にまとまり過ぎててオリジナリティーのないものになる。

夢だからということではなく、映像として考えればあったりまえの話しじゃないのかな。」「じゃ、どうすればいいんだ!?」「簡単だ。演出すればいい。」「ヤラセか?」「違う!演出だ!」「あ、ストリーの捏造ね。」「ち、違う!わざと視聴者が面白く感じるようにストリーを面白可笑しく捏造するのだ。」「なるほどそうか。すまなかった。」

共同研究者に矢羅瀬教授を加え、新たな実験が始まった。演出を加えるからにはそれなりの専門家が必要だ。まずはストリーを考える放送作家。これをカンプに起こすイラストレータ。演出を仕切るディレクター。音声、照明、AD、カメラ、声優(万が一音声が途切れた時に代行する)などであった。

放送作家が立案したストリーをイラストレータがカンプに起こした物が上がってきた。ロブスターの母親が持っていたハンバーガーをオラウータンがピスタチオと無理矢理交換してハンバーガーを食べてしまうというのがシーズン1。

そのピスタチオを庭に蒔いてピスタチオの木が育ち大量のピスタチオを収穫して喜ぶロブスターの親子がシーズン2。

ロブスターの母親を殺害し、ピスタチオの木と実を横取りするオラウータンがシーズン3。

ロブスターの子どもの復讐に備えて海外に逃亡するオラウータンがシーズン4。

この4シーズンで構成されたストリーであった。

というわけで放送作家とイラストレータを除く全スタッフが棚網教授の研究室に集まった。「私は何をすればいいのでしょうか?」と照明がディレクターに尋ねる。「そんなことはプロなんだから指示される前に自分で考えろ!」とディレクターが一喝する。そしてディレクターが矢羅瀬教授に尋ねる。「ところで私は何をすればいいのでしょうか?」「う〜ん、特に決めてはいないのだが、とりあえず誰かが夢を見始めないといけないな。」この言葉を聞いたディレクターはカンプに目をやる。音声はアンプのボリュームをいじる。照明はバッテリー残量をチェックする。カメラはレンズを調整し、ADは何も調整するものがないのでガムテープをカメラのレンズのようにいじってみた。

「おい、そこのガムテープ!」「ハイッ!」と迂闊にもADは返事をしてしまい、自動的に夢を見る人体実験台となった。ディレクターが言う。「オマエ、いっつも寝る時間が無いって言ってたよな。今からじっくり寝ていいんだぞ♪」こうして夢のロケが開始された。寝付きの悪かったADは結局大量のクロロフォルムによって強制熟睡させられ、持っていたガムテープで口を塞がれた。あとは鼻が詰まってさえいなければ死ぬことは無い。「あっ!しまった!」と突然ディレクターが叫ぶ。「どうした?」と矢羅瀬教授。

「役者が足りません。」とディレクター。「あ、そーか。本人だけじゃ一人の役しかできないからな。」と矢羅瀬教授。するとディレクターが、「あ!そーだ。」と言って照明のほうを見る。

「おまえ、名前なんだっけ?」「はい。森野です。」「下は?」「一人です。」「だよな。丁度いい。オラウータンやれ!」次に音声のほうを見て、「名前は?」「……山田です。」「ウソをつけ!」「あ、はい、海老沢です。」「分かってるな!?」「は、はい。。」こうしてロブスター役も決まった。

残るロブスターの子どもはAD本人がやるということになりキャストは決定した。カメラの臼井と声優の栗原にとっても冷や汗ものではあったが。ロブスター役の海老沢が、「あらもうこんな時間だわ!早く帰らないと子どもたち、お腹すかしちゃう。」と台詞を読む。「か〜〜っっと!」ディレクターが叫ぶ。「もっとロブスターらしく、ほら、例えば両手をチョキにして左右に揺れながらとか、何か工夫しよろ!」「はい。」「じゃtake2行くぞ!5秒前、4、3、2……」「あら〜(ちょきちょき)、もうこんな時間だわ(くねくね)!早く帰らないと(ちょきちょき)」「カットぉ!」「幼稚園の学芸会じゃないんだから、もっとプロっぽくやれよ!これじゃ見てて恥ずかしいだけじゃん!」「あ、はい。やってるほうも恥ずかしいです。」「いいからtake3行くぞ!」

最初のカットだけでOK出ないまま6時間を費やした。この間、矢羅瀬教授と棚網教授は椅子で腕組みをしたまま深い眠りに入る。

やることのないオラウータン役の森野も、最初は緊張した面持ちで見ていたが、やがてゆっくりと眠りの中に入っていった。

カメラの臼井は撮影している都合上、眠るわけにはいかなかった。声優の栗原も、NGが出る度に海老原の目からこぼれる涙を拭くという本来はADまたはメイクまたはスタイリストの作業の代行が発生しているため、眠る余裕は無かった。そしてこの二人は同時に同じ疑問を感じていた。「この撮影と実験台ADの夢はどう連動するのだろう?」と。

一方、クロロフォルムは効果が薄れ、実験台ADは目を覚ましつつあった。おぼろげな意識の中、口の自由が効かないことに気付く。次に手足が縛られていて動かないことに気付く。「こ、これが金縛りか。始めて経験した。。しかし体の自由が効かないというだけで、それほど心理的な恐怖感ってもんはないな。なんであんなに恐れられているのだろうか?」なんて思ったりもしていた。

そこへやってきた棚網教授が手足を固定していたロープをゆっくりとほどいてくれる。ゆっくりとゆっくりとほどいているのだが、なかなか自由が戻ってこない。いや、ほどいているのではない。縛っている上から、また何重にもロープを巻いて縛っているのだ。そして棚網教授が呟く。「金縛りを甘く見ちゃいけない。。」

森野はゆっくりと眠りに落ちていく途中で、NGを連発している海老沢と自分が入れ替わったり戻ったりしていた。NGを出される森野と、NGを出されて絶望する海老沢を眺める森野が交互に現れては消えていく。そのうちに、これは夢なんだからいずれ終わる。OKが出る前に目覚めてしまえばいいのだ。起きろ!起きるんだ!そうすればこんなものは全く恐れることはない。後方でディレクターが叫ぶ「take52行くぞ!」

そこへ棚網教授がやってくる。「ダメですよ。夢の中でちゃんと完結しなきゃ。途中で目を覚まして夢から逃避するのは卑怯者です。きっと目覚めてから恐ろしい報復を受けることになりますよ。」

矢羅瀬教授は夢の中でディレクターを説得していた。「おい、いい加減OKしてやれよ。このままじゃいつまで経っても終わんないじゃないかぁ。」と言う。「はい。じゃ次で最後にします。」と答えるディレクター。ところがその最後のカットが今までになく下手糞な喋りで、どう譲歩してもとてもOKのものではない。それでもOKにするか、もう一度やらせるか、いっそのことこの台詞自体を無しにするか。。と思い悩むのであった。

そこに棚網教授が入ってくる。「あれ、今、何を悩んでいました?」「今のシーンをOK出すかどうかで。」「う〜ん、それはマズイな。」「えっ?何で。」「だって思い悩むというのは、映像化できないじゃないか。何か情景をイメージしながら思い悩むならまだしも、叙情詩的な悩みは困るんだよ。」「あ、そうか。いや実はそんなこともあろうかと声優を呼んであるんだよ。彼にナレーションで説明してもらおう!」「しかし。。その原稿は誰が書くんだ?」「私が書く。」「そーか。それならば安心だ。ところで今あるのか?その書いた原稿?」「あるある、ここに。」「早いな。」「夢だから都合良く展開しただけだ。」「あれ?これ毛筆じゃないか。これじゃ読めんよ、普通は。」「どれどれ。あ、ほんとだ。フォントを間違えたようだ。今、変換するから待っててくれ。」「じゃ、その間に私はADが逃げないように、もっと厳重にロープを縛っておこう。」「あ、じゃついでにオラウータンが夢から覚めないように念を押しといてくれ。」「ラジャー。」

オラウータンになった森野は家路を急いでいた。奴らが報復に来るからだ。両腕を前に突出しから手の甲を地面に振り下ろす。そこに体重をかけ、体を宙に浮かせて振り子のように、両腕を支柱にしたブランコのごとく前方に移動。こうすることで思いのほか速く、快適に、スムーズに、前に移動できる。人間の時の3〜4倍の速度で移動できるという感覚だ。オラウータンならでは、夢ならではの爽快な走りである。

前方に視界を横切るように木の枝を発見。森野はそこに手を伸ばす。5mぐらい離れた所から手を伸ばしたのだが届いた。オラウータンならでは、夢ならではの都合の良い展開だ。そしてその枝に両腕でぶら下がり、走ってきた勢いで大きく体を振り前方にぴゅ〜〜んとジャンプした。するとそのまま自宅の前まで飛べた。夢だけじゃなく現実の世界もこうあって欲しいと感じた。

自宅は江戸時代の農家であった。こんなところに住んでいた覚えはないと思いつつその家に入ろうとする。入口の土間のところに糞が置いてある。どうやらこれを踏まないといけないらしい。仕方なく踏む。しかしオラウータンなので裸足だ。糞は表面こそ若干乾燥していたもののマントル部分はまだ柔らかかった。そのマントルが足の指の隙間から足の甲のほうへ登ってくる。

そこで疑問がひとつ。「夢は匂いを感じるのか?」棚網教授の説明によれば、現実に寝ている周囲に匂いの強いものがあれば、夢の中でその匂いを発生するもの、または類似した匂いのもの(例えば現実に魚を焼く匂いがしていれば、たき火の夢)が登場することはある。ただし夢の中に登場した物質は視覚、聴覚で感じることは出来ても臭覚までは連動して架空のものを感じることは出来ないとのこと。これは味覚についても同様と考えて良いとのことだ。

また、触覚についてもほぼ同じで、現実のほうに夢に促すような体制や状況、例えばベットから片足が落ちていると、崖から落ちそうになっている夢を見ることはあるが、夢の中で触るイヌの毛並みの感触は、触覚として夢の中で感じることは無い。

つまり臭覚、味覚、触覚を表現する場合には、必ずそこに映像が伴うというのも夢の特徴ということだ。しかもその表現をしなければいけないシーンが急遽訪れるためにカメラアングルの設定が間に合わず、人称の入れ替わりが発生してしまうということも分かってきた。例えばイヌを撫でている人も客観的に見ていたはずが、いつのまにかその「撫でてる人」になっているというものだ。

ということで「夢は匂いを感じないらしい。」ので森野は安心した。そしてこの糞は踏むだけでなく、踏んだ後に滑って転ぶという筋書きであることを思い出す。いや、思い出したわけではない。夢の中で、そう、思い出せと強制されたために思い出したことにしたのだ。

そして転ぶ。オラウータンは数メートルの木の上から落下したり、仲間とケンカをしたり、じゃれあったりと、毎日かなり激しい運動をしているため、転んだ程度では痛くも何ともない。はずである。という理由により森野は転んでも全く痛さを感じなかった。もちろん痛さというのは触覚の延長線上にあるものなので、夢の中で感じることは出来ない。従って夢の中で「どう考えても痛いだろ!」というシーンの時には、このように痛く無い理由を咄嗟に考えて痛くないままストリーを進行させるか、人称を入れ替えて、主観から客観にワープすることで痛さを感じないようにするわけであった。

糞によって足を滑らせた森野は思いっきり仰向けに転んだ。後頭部も土間に強打したはずであるが、もちろん夢なので、オラウータンなので痛くはない。しかし下半身は糞まみれだ。オラウンコタンになってしまった。

この糞をどうやって洗い落すか考えなければいけない。いや、これは夢だから目覚めればオレ自身には糞は付着していないはずだ。などと思って天井を見上げると、梁のところにカメラの臼井が待機していた。夢の中ではカメラの仕事は必要無いのでヒマだったのだろう。

臼井は梁から森野めがけてフライングボディープレスを浴びせるべく舞い降りてきた。なぜ臼井が奴らの仲間になってオレに報復しようとするのだ?いや、夢の場合、新たな配役が登場する場合に、そのキャラを設定する時間がないので、立場や今までの役割は無視して、とにかく既存のキャストをランダムに使い回すという特徴があるのだから仕方がない。

落下してくる臼井を森野は直前で身を翻して避ける。オラウンコタンならではの反射神経と運動能力の高さだ。臼井は土間に広がった糞の上にうつ伏せの体制のままモロに落下した。しかし息つく暇もなく、今度は家の中にあった火鉢の中から全身灰まみれの声優の栗原が乱舞しながら飛び出してきて森野に襲いかかった。いや、襲いかかったというより、それまで火鉢の灰の中でじっと隠れて攻撃の期をうかがっていたらしいのだが、その熱さに耐えきれず飛び出してきたのだ。

ここでの「熱さ」は夢を実ている森野が感じたものではなく、断末魔の乱舞をする栗原を見て森野がそのように想像しただけである。なぜそのように想像したかというと、栗原が「ぶわっちっちっち!」と叫んでいたからだ。

突進してくる栗原は森野につかみかかり頭突きを喰らわそうとするが、森野がこの頭突き間一髪かわすと、栗原の頭は土壁にめり込んだ。そしてめり込んだ穴の周囲からは乾燥した壁の土が埃のようにパラパラと落ちる。通常夢においてこのようなディテールの表現は省略されがちだが、ここは見る人のこだわり次第でもある。しかも森野は照明なので、こういった細かいシーンでのライティングもしっかりとしていた。

栗原はめり込んだ頭を壁から抜く。そして森野を捜す。すると家の奥のほうからディレクターが外を指差して叫ぶ。「あっちだ!早く追え!」外を見ると森野が走って逃げていく。栗原はその後を追う。しばらく走ると臼井が並走している。その横にはストレッチャーに固定されたままのADもストレッチャーで並走していた。「いかん。このままではこいつらに抜かれる!」と思いつつ栗原は速度を上げるのだが、臼井もADも同じように速度を増す。

川に差しかかる。田んぼの中にある小川で幅は2〜3m。川の両岸の草木が焼けていた。前回のロケで終了後にゴミを拾うのが面倒なので灯油を撒いて火をつけたらしい。「○○テレビの連中だな。」とディレクターが呟く。実は栗原は以前その○○テレビに在職していて、実際のロケ現場で自ら火をつけたこともあったのだ。

そこに電車が来る。いつのまにか目の前がプラットホームになっている。そこで構内アナウンス「次の電車は満員です。これ以上は乗れません。どうしても乗りたい方は荷物は置いて乗ってください。」

仕方がないので歩いて行くことにする。いや、この近くにチャリがあるはず。あ、しかし鍵がない。とりあえず行ってみる。鍵はかかってなかった。しかしパンクしている。よく見ると部品が色々と盗まれている。これで走れるのか?いや無理だ。

とにかく修理が必要だ。自転車屋がこのへんにあったはず。行ってみる。自転車屋は釣り堀になっていた。1時間500円だそうだ。今ならすいてる。堀の中には巨大な魚がうようよと泳いでいる。今ならあれが確実に釣れるはず。しかし仕掛けが思うように作れない。何度結んでも糸がほどける。何度も何度も結ぼうとするのだが。

棚網教授の声がする。「そろそろ終わりにしてくれ!」これを聞いて慌てる森野。とにかく今までの夢を整理して棚網教授に報告しなければいけない。「えーと、最初私はオラウータンになったんですよ。これがけっこう快適で、走る速度は…」「すまんが、要点とストリーだけを手短に説明してくれないか?」「あ、はい。それで家に戻ったら臼井が天井に隠れていて、私を襲いました。」「糞はどうした?」「あ、そうそう糞も踏みました。」「ところでキミは何を注文する?」「あ、えーと、じゃAランチで。」棚網教授はすでにBランチを喰っていた。サンマとオムライスのランチだ。

すぐにAランチも来た。丼だ。丼のフタがなかなか開かない。なかなか開けられない。やっと開いた。中身は炊く前の米だ。水に浸っている。よく見ると丼にスイッチがついてる。これをONにして30分待つらしいのだが。。

隣の部屋から声が聞こえる。「take127行きま〜す!5秒前、4、3、2……」

天声人誤

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