▼天声人誤

●アイソメトリック症候群

晴眼者の目では遠近法により、近くのモノは大きく、遠くのモノは小さく見える。アイソメトリック症候群はこの遠近法の機能が何らかの原因で損なわれてしまった遺伝子疾患とされているが、正確な原因は未だに解明されていない。

数億人に一人の割合で発症すると言われているが、遠近法が損なわれていることの他に、何も症状が出ないために、周囲の人も、本人もアイソメトリック症候群であることに気がつかない場合も多いようだ。そして気がつかないまま一生を終えるというケースもあるのではないかと言われている。

ただし幼児期の「お絵描き」を教育している先進国においては、その描く作品が明らかに異常なために発見されることもある。また物心ついてから、本人が風景写真やテレビなどを見て疑問を感じることからアイソメトリック症候群であることが判る場合もある。アイソメトリック症候群であっても、写真やテレビの映像は遠近法がついて見えるためである。

逆に言うと、写真もテレビもなく、絵を描くという教育も行われていない時代、または地域では、アイソメトリック症候群は完全に見逃されていた可能性もあるとのこと。

しかしそのような未開の地域でも、アイソメトリック症候群の患者には特有の傾向がある。それは「動物を異様に怖がる」「上空を飛んでいる飛行機に異様に反応する」などだ。

実際に彼らの視野内に映る全ての物体が1/1のスケールで存在していて、水平線を見れば、地球の丸みによって水平線が消えるまでの途中の波が全て1/1のスケールで見えることになる。渋谷のスクランブル交差点や東京ドームの観客席を見れば、そこにいる全ての人の顔が1/1のスケールで見えることになる。鬱陶しいことこの上ないだろう。

従って未開のジャングルや孤島に住んでいる分には、支障のない生活を送ることもできるが、人口密度の高い都会では、やはり精神的におかしくなってしまうことも多いようである。

幸いなことにアイソメトリック症候群であっても空気遠近法と音声は晴眼者同様に感じることができるために、慣れてくると自分の視野の中に映るオブジェクトの優先順位みたいなものが、それとなく判ってくるようでもある。

文明が近代化することによってアイソメトリック症候群は発見されやすくなってきた反面、狭い部屋に引きこもり、パソコンの画面だけを見ている人では、アイソメトリック症候群であっても、周囲も本人も全く気づかないまま、その一生を終えるというケースも増えてきているようだ。

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