▼天声人誤

●ゲロ

ゲロを吐く要因としては、飲酒、乗り物酔い、マインドクラッシャー、食あたり、頭部への長時間の負担、胃炎や胃潰瘍や頭痛などの疾病によるもの、があげられる。

飲酒の場合、終電の車両内には明らかにその状態から嘔吐の危険性が高い、もしくはフィナーレまでが時間の問題であるような人をしばしば見かける。多くは我慢できずに予定の降車駅以前に電車を降り、プラットホームの柱の陰や駅員待機室の入口等で嘔吐するのではあるが、中にはそれにすら間に合わず車両内で小間物屋を出店してしまう乗客もいる。しかしいくら酩酊状態であろうとも車両内の嘔吐はその迷惑度が高いことを察し、嘔吐物を口腔内で食い止めトノサマガエル状態で次の駅まで持ちこたえる強者もいる。

これら一連の試練を乗り越え予定の降車駅で下車し、駅から帰途につく路上でついつい気が緩み、右手を電柱のやや高い箇所に添えながらその電柱の根元付近に嘔吐している光景もよく見かける。

これは嘔吐自体にはそれほど問題は無いにしても、翌朝頭痛と後悔の念と寝不足を伴いまた同じ駅に向かう途中で、自らの嘔吐物を目撃するのは空しいものがある。

しかもそれが疑う余地もなく自らの展開物であるという確証は何処から来るものであろうと思いつつも確固たる自信があるのではあるが、その嘔吐物をカラスがつまんで食する光景はさらなる虚脱感が二日酔いに追い討ちをかける。

乗り物酔いの場合は確実にそのパフォーマンスが乗り物という限られた比較的狭い空間で演出される。またこの乗り物酔いには連鎖反応なるものがあり、嘔吐の輪唱を奏でることもある。

マインドクラッシャーとはこの輪唱にも関係し、他人の嘔吐やグロテスクな物を見た場合や恐怖の感覚に伴い嘔吐するものである。鉄道への飛び込み自殺の死体をまともに目撃した場合などにこういった現象が起こり、ミンチ状になった死体の上に第三者の嘔吐物が散布されたために検死作業やDNA鑑定に混乱を及ぼすこともある。

食あたりや疾病の場合には嘔吐物に血痕や血液の塊が混ざることがあり、これは通常のゲロが、そのままもんじゃ焼きとして食しても問題が少ない事に対し、感染症の危険が高いので、よりよく火を通す必要がある。疾病を伴った嘔吐物では血痕が筋状に展開するため、火を通し過ぎてその血痕が変色しないうちに唐辛子または紅ショウガをイメージさせる程度で食するのが良い。

嘔吐は回を重ねるに従い液体の割合が増えるので、その段階に応じた調理法を心得ておく必要がある。第一陣の比較的水分が少なく粘性のい高い状態では、ピザ、お好み焼きなどに混入させて調理するのが望ましい。状況によっては、イカ、ニラ、コーンなどが、ほぼ原型をとどめたままで提供されることもあるので、そのような場合には嘔吐物単体で食するのがリーズナブルでもある。特に元々酸性が強いために、レモンを搾ってかける必要もなく消化にも良い。

第二陣、三陣となると、固形物の割合が低くなり、総合的に栄養価が低くなるため単体での調理は困難となる。パスタやうどんなどの炭水化物にからめて食する場合もあるが、その残留栄養値と調理の手間を省く意味ではキムチチャゲやクラムチャウダーに混ぜて食するのが一般的なようである。

最終陣、もしくはセミファイナルの嘔吐物の場合は、その成分のほとんどが液状化しているため、そこから滋養や栄養価を期待することは出来ない。従って炭酸飲料とのミックスやカクテルとして利用したほうが効率的とされている。

また、それら嘔吐物を単体でそのまま飲んでも問題は無い。なんと言ってもこれ以上消化の良い飲食物は他に無い。

天声人誤

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