▼天声人誤

●視野

肉食の動物は、捕えようとする目標を正確な距離で見定めるために顔の正面に2つの目が位置している。これに対して肉食動物の餌となる生き物、つまり草食動物は常に周囲が見渡せるように顔の側面に目が位置している。

肉食動物の中でも、ライオン、狼、フクロウ、アザラシ等は、その顔つきから想像するに、恐らく人間と同じような視野を持っているのではないか。しかし草食の、鹿、馬、象などの視野というのはどうも想像しずらい。

例えばサラブレッドの場合、となりを走っている馬の状況は大変よくわかり、反対側の馬の様子も騎手の表情まで完全に捕えることができるように思われるが、はたして真正面の景色というのはちゃんと見えているのだろうか?

馬の目の位置を考えると、どうも視野の中央付近はピンボケになっているように思える。しかしそのわりにはゴールに向かって一直線に走っていけるのはなぜだろうか? 

象などはもっとピンボケになっているはずである。人間でいえば耳の下のやや前方付近に目が位置しているということになる。

鯨はどうだろうか?ピンボケどころではない。特にマッコウクジラなんかは完全に左右の視野が独立している。映画館に例えれば、スクリーンに何も映っていない真っ暗な状態で、左右の壁面前方の、「非常口」、もしくは「禁煙」のサインの付近に40インチぐらいの画面がそれぞれあって、マッコウクジラはこの画面を見ながら泳いでいるのだ。

しかしこれでは真っ暗な部分が多すぎるので、この黒い所は自動的にカットされ、脳に伝えられるのは2つの画面だけのはずである。それでは左右2つの画面の繋ぎ目はどうなっているのか、この2つの画面は全く違った風景が映っているはずである。

カメレオンはどうだろうか、これも仮に目が1つであれば何も問題はないのだが、2つの異なった画像データを脳の中でどうやって処理をしているのだ?やはり問題は繋ぎ目である。

蟹の場合はどうだろうか、こいつはもともと顔から直接手足がはえたような変な生き物であるうえ、2つの目玉が各々360度見渡せるようになっている。つまり左目で右目をみることができ、1匹なのに目と目が合って気まずい思いをしたりもする。

磯辺でじっとしたまま赤くなっている蟹を見かけたら、「ああ、気まずい思いをしているんだな、」っと思って見過ごしてやってほしい。

そもそも人間の視野にしてもその輪郭というものは定かではない。はっきりとしたアウトラインがあるわけでもなく、グラデーションでボケていってるのでもない。その輪郭の"かたち"にしても長方形なのか楕円形なのか∞(インフィニティー、8の字etc..)なのかはよくわからない。

輪郭の方を見ようとすると、いま輪郭であったと思われるあたりが視野の中央になってしまい、いくらトライしてもその輪郭に焦点を合わせることはできない。そんなことをいつまでもやっていると、いつか白い2つの歯車が視野の上の方に現われて、消えなくなってしまう。

これは虹彩のアイリスと水晶体のフォーカスをコントロールするモーターのシャフトの根元のジュラコン(プラスチックの一種でナイロンのような材質)の歯車がCCD付近の外壁に接触し、この外壁が摩耗し穴が開き、歯車がCCDの視野範囲内に脱落したために起こる病気であり、見ないようにすればするほど、このシャフトが激しく回転するため、余計に病状を悪化させてしまうというタチの悪いものである。そうならないように気を付けよう。

天声人誤

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