▼天声人誤

●発明

人類三大発明が何かという議論は尽きない。蒸気機関、紙、活版印刷、羅針盤、火薬、コンピュータ、自転車、言葉、文字、ポケモン、石器、その他色々な説があるようだ。しかし恐らく外せないであろうものが「車輪」ではないか。

人類は多くのことを自然や動物を観察し、その現象や行動をヒントに道具を作ってきた。例えば蒸気機関は間欠泉から吹き出す水蒸気を見て、そのエネルギーを何とか応用できないか?と考えたことであろうし、火薬は硝石、硫黄、炭が自然界で燃焼する様子を観察したところから発した可能性もある。

石器はオラウータンやゴリラが植物の殻を砕くために使っていた石が進化したものだ。紙は元々木の葉を使っていたものが、植物の種類や加工方法を徐々に絞り込んでいった結果完成したものであろう。羅針盤は自然界の中で磁力を帯びた鉄鉱石が何かが元で、それが方位を示すということに気がついたことがきっかけであろう。

自転車や活版印刷、コンピュータは文明がかなり発達してからの発明であり、飛行機やタイプライタ−も発明と呼んでいいのかもしれない。また、言葉や文字は人類が進化する上でコミュニケーションをとるために必然的に生まれたものである。

しかし車輪の場合には、自然界にヒントとなるもの、参考となるものは存在しない。動物の場合でも、実は足による歩行という移動手段よりも、車輪を利用したほうが、はるかに効率的なはずであるのだが、なんせ、生物なのでその車輪に栄養を伝達しなければならず、その方法が無いために生物には車輪が存在しないわけだ。

また、発明の中で何が重要であるかを判断する基準としては、代替品があるかどうか?ということが挙げられる。例えば蒸気機関の代替品は、電気、内燃機関、など既に色々なものが存在する。紙については既にペーパーレス時代になりつつあるし、プラスチックや繊維でも代替できなくはないだろう。

活版印刷の代替はコピーやレーザーなどいくらでもあるだろう。羅針盤はGPS、火薬の代替品としても既に様々な爆発物が存在する。

そういう意味では車輪に代替できるものは存在しない。あえて言うならば「そり」や「コロ」、「動く足」ということになるだろうが、どれもその効率やコストパフォーマンスは車輪の比ではないだろう。キャタピラというものもあるが、これは車輪の応用例でもあり代替とは言えないだろう。

もし車輪が発明されていなければ、モーターや内燃機関、発電や原子力、鉄道や飛行機、自転車や馬車、洗濯機も掃除機も冷蔵庫もエアコンも存在しえなかったわけだ。

そして忘れてはならない発明がもう一つある。それが「階段」である。階段に代替できるものをあえて言うならば「坂」「梯子」「滑り棒」ということになるだろうが、どれもその効率やコストパフォーマンスは階段の比ではないだろう。エスカレーターというものもあるが、これは階段の応用例でもあり代替とは言えないだろう。

もし階段が発明されていなければ、2階、3階に移動するためには、人間が歩いて滑り落ちない程度の、恐らく傾斜10度以下の坂によって建坪の大半を占めてしまうことだろう。エレベーターが装備できる高層な建築物を除いて、多くの建築物がこの坂が必要になってしまったことだろう。

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