▼天声人誤

●原始人

コンピュータに全く興味が無い人にインターネットの使い方を教えるのは原始人に火を教えるようなものである。火を使う事で人類は食べ物を調理したり、住居の暖房に利用したり、戦いや狩りの道具として応用したりして、これが後の蒸気機関や内燃機関の発明へと発展するのであるが、その有効性を原始人に教えようとしても、熱い、燃える、怖い、という直接的な現象でしか捉えることができないだろう。

同様にインターネットなるものも、ウイルスに感染する、個人情報が漏洩する、フィッシング詐欺にやられる、仮想と現実の区別がつかなくなった子供たちが暴力事件を起こす、といったマイナスイメージが先行し、危険、怖い、難しい、というものとして捉えられてしまうこともある。

さて原始人とは、猿人、原人、旧人、初期の新人を総称する言葉ではあるのだが、猿人の代表的なものであるアウストラロピテクスは、脳の容量や外見はどちらかというとチンパンジーに近く、二足歩行で直立して歩いてはいたものの、最後期の種でやっと石器を使い始めたということなので、人類というよりは、やはり猿の仲間であるようだ。

原人は、ジャワ原人、北京原人を始め、多くの種類があるようだが、基本的には二足直立歩行し、石器を使い、一部火を使っていたとのことだ。脳の容積は現代人の半分程度ではあるものの、どうやらこのへんから「人」に近くなってきたのでないかと思われる。

ここで注意したいのは、猿人、原人、旧人、に至る進化の過程では、決して一つの種が段階を追って進化したのではなく、地球上のあちこちで色々な猿人が生まれ、あるものは絶滅し、あるものは進化をせずにその種のまま生存を続けたということである。実際に数万年前に生息していたホモ・フローレシエンシスという原人が19世紀に目撃されたという例もある。

このホモ・フローレシエンシスの骨はステゴドンという象の一種と同じ場所で発見されたため、このころからマンモスの鼻を輪切りにした串焼きを食べ始めたものと考えられる。ただし原始人が恐竜と戦い、その肉を食べるというのはフィクションの世界だけの話であり、3億年前に生存した恐竜と数万年前に登場した原始人とでは、同時期に共存することは不可能である。ただしマンモスは四大文明発祥のころまで地球上に生存していたので、原始人とは永きに渡り共存していたはずである。

また、映画や漫画などで登場する原始人の住居の背景には必ず活火山が存在し、劇中しばしば噴火を起こすことが知られているが、実際には必ずしも原始人が火山の近くに住んでいたというわけではない。地球上での火山活動が最も活発だったのは先カンブリア時代であり、恐竜が生まれるはるか以前の話でもある。

しかし上記のホモ・フローレシエンシスは1万2千年前に起こった火山の爆発で、ステゴドン等と共に滅んだと考えられるらしい。

さてその次の旧人であるが、旧人の中で最も有名なものがネアンデルタール人で、精工な石器を作り、積極的に火を使い、死者を埋葬する習慣もあったとされている。またこのネアンデルタール人が文化というべきものを有していたという説もある。脳の容積は現代人より大きく、かなりの高い知能を持っていたとされる。ただし、このネアンデルタール人は現代人の直接の祖先ではないという説が有力のようだ。

また、現代でも企業をはじめ多くの組織に旧人と呼ばれる人たちが存在する。これらの特長は、昔の話を何度もする。自分の知らない事は否定する。新しいことはやらない。蘊蓄ばかりこいて実行はしない。極めて生産性が低い。知ったっプリをする。すぐに怒る。パソコンが使えない。ケータイは電話としてしか使わない。人の話を聞かない。自分の話を聞かないと怒る。待てない。全ての状況において自分を正当化しようとする。謝らない。反省しない。などで、既に現代人との共存が危ぶまれている。

さて最後に紹介するのが、新人と呼ばれる現代人の直接の祖先で、その中で最も有名なものはクロマニョン人であろう。精密な石器や骨器などを作り、洞窟壁画や彫刻なども残していて、かなり進んだ文化を持っていたということだ。また新人は貨幣制度を確立し、石製の巨大な貨幣を流通させていたとされるが、実際にこの貨幣自体の発掘例が無いために、その流通形態の詳細は未だに解明されていない。

しかし現代でも企業をはじめ多くの組織に新人と呼ばれる人たちが存在する。これらの特長は、知識と経験が無いにもかかわらずプライドが高い。判断基準が浅い。軽卒である。評論したがる。高齢者をバカにする。などで、主に旧人との共存には問題が多い。そしてその問題の発端となったのは、21世紀初頭のIT革命という異変である。

それまで安泰に暮らして来た旧人にとってIT革命はコスミックハザードにも匹敵する種の絶滅を促すような大惨事であった。それまでは組織内の年功序列という制度に守られ権威を保っていた旧人たちは、このIT革命により一気に生産性の低さを露呈するハメとなり、自由経済社会の中で競争力を失い、新人を含む現代人から取り残されるようになった。

そこで、このままではいけないということで、国や自治体の援助も受け、この旧人たちに実践的なIT教育を施すプロジェクトが多数企画、実行されたが、そこは悲しいかな旧人、覚えるよりも先に、危険、怖い、難しい、という概念が先に立ち、実践的な効果は得られなかった。

この成果に対して、根本的な原因を究明すべく仮説が発表された。それは、原始人は床屋に行って散髪をするという習慣は無かったはずであるが、頭髪を含む体毛が放っておけば無制限に伸びるということでもないというもの。

恐らく原始人は他の哺乳類と同様に、髪の毛はある長さになれば自然と抜け落ち、生息地や季節によって多少の差異はあるものの、一つの種では、全員が同じような髪の毛の長さであったというものだ。しかし現代人の頭髪は放っておけば、ほぼ無制限に伸び続ける。

ところが現代生存する旧人の中には、散髪に行かずとも自然と頭髪が抜け落ち、特にてっぺん部分の髪の毛が皆無となっている個体の割合が多いというものだ。このことから原始人の旧人と現代の旧人との間に何らかの遺伝子的な因果関係があるのではないかというものだ。
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