▼天声人誤

●海の幸

関越自動車道、北陸自動車道の開通で、東京から北陸がずいぶんと近くなった。海へ行く場合も、渋滞を何度もくぐり抜けながら三浦半島や伊豆へ行くよりも楽である。行くのが楽でなければ行楽ではない。

北陸はとにかく魚がうまい。ちょっとマイナーどころの民宿がいい。その日の朝に漁れた魚が食卓に並ぶのだが、同じ種類で同じ大きさの魚が必ず漁れるわけではないので、一人一人種類が違っていたりもするが、どれを食べてもうまい。魚はその種類よりも鮮度で味が決まり、漁りたてならば雑魚でもうまいというのは言いすぎだろうか。

漁ってきたばかりのサザエがその辺に転がっていて、聞いてみると1個¥150とのことである。安いというのも魅力であるが、気軽に食えるというのも大事である。本来食事とは、心配したり、緊張しながらとってはいけないものである。

漁りたてのイカの墨袋をスーッと包丁の先で裂いて、その中味を熱い御飯の上にサッーとかけて食べる。これが絶品である。こういったものは、いま水揚げされたばかりであるという確信がなければ、なかなか食べられないものである。

東京近辺の海でも、昔は葉山の方まで行けばけっこうすいていたし水もきれいだった。しかし最近では長者ヶ崎あたりもずいぶんと汚くなっていて、海岸を歩いてみると、一歩踏み出すたびに大小さまざまな大きさのフナムシがサーッと放射状に逃げて行く。自分の家の風呂場がこんな状態であったらさぞ不気味であろうなどと思いつつ、テトラポットのすき間を覗いてみると、大量の流木や海草に混じってペットボトル、鳥の死骸、コーヒーの缶、マキロンの容器、軟式野球のボール、魚の死んだやつ、ゴム草履、などがプカプカと浮いている。

ペットボトルはなぜか"コーク"や"ポカリ"ではなく、"バヤリース"や"7ーup"が多いように思える。コーヒーは"ジョージア"ではなく"ポッカ"が主流である。ゴムゾーリはバーブ佐竹が履いていたと思われる、あの青いゴムゾーリが一般的で、ビーサンはあまり見かけない。

ゴムゾーリは単体で見ればただのゴムゾーリであり、浮いていたとしても何ともないのだが、丁度同じくらいの大きさのボラの死骸のとなりで海草を掛け布団として共用しながらプカプカしていると、ずいぶんと汚いものに見える。

ボラの死骸のほうも、死んで間もないやつや、ほとんど朽ち果てて骨だけになっているのはよいのだが、体内にガスが溜まり、全身が白く変色し、腐食の最盛期にあり、試しに棒でつついてみると、思いのほか簡単に肉がとれてしまうようなのが一番汚い。

その死骸のとなりにコンドームが浮いていることもある。まだ中に何か入っていて少し膨らんでいる。仕方がないので、こいつを拾って家に持って帰り、スーッと包丁の先で裂いて、その中味を熱い御飯の上にサッーとかけて...

天声人誤

メニュー




.