▼天声人誤

●山の手線

「いっそのこと山の手線の電車を一周全部つなげてしまえばいいんじゃないか?」「うん、そりゃいいかもしれない。」っと、ここまでで普通会話は終わる。なぜ終わるかといえば、誰もが本当はそんなことは不可能だと思い込んでいるからだ。

しかしよく考えてみよう。なぜ不可能なのだ?色々な理由があると思うが、その理由というのは人それぞれ違うのではないか、また、その理由を一つずつ解決していけば実際には可能なことなのではないか。

ここではその考えられる理由を一つずつ潰していき、山の手線の電車を一周繋げることの可能性について検証してみることにする。

【理由その1】車両の数が足りない。
【解決策】余っているではないか。あまっているから武蔵野線や横浜線や南武線や青梅線に"お古"の電車を与えているのだ。

【理由その2】長さがぴったり合わないのではないか。
【解決策】確かにぴったり合う確率は少ない。半車両分足りなくなるか、2m足りなくなるか、30cm足りなくなるかは、やってみないとわからない。30cmであった場合、あの連結器のところのジャバラを30cm伸ばしてしまえばよい。2mの場合は特別に2mの車両を作ることになる。ほぼ二畳敷の正方形の車両になってしまうが、とりあえず1両だけ作ればよいのだ。この車両にドアを付けるかどうかはあまり深く考えないで、とにかく1両だけ作ってしまえば解決する。

【理由その3】運転手がどこに乗るか。
【解決策】運転手の目の前に車掌が乗ることになる。奇妙な感じはするが、さしあたって問題はないはずである。強いて挙げれば、車掌が乗車券を拝見するのに車内を歩く距離が長くなる。しかし最後の車両(先頭車両)に行き着いた後は、運転手の脇を通って最初の車両(最後尾車両)にヒョイと乗り移ればよく、従来に比べて帰りの時間と手間が省略され、トータル相殺されたかたちとなる。

【理由その4】踏切が開かない。
【解決策】だいたい山の手線に踏切はあるのか?あったとしても多くて3箇所ぐらいのはずである。踏切待ちで一番イラつくのは、警報器が鳴り、遮断器が降りてから実際に電車が来るまでの待ち時間である。これが必要以上に長い。安物の鉄道模型では踏切の上に電車がさしかかると、その重みで遮断器が閉まるというのがあるが、これは実に合理的である。このくらい待ち時間が短ければ日本の交通渋滞もかなり緩和されるのだが。

次にイヤなのが電車が通り過ぎた後、警報器の下の矢印が消えないときである。鉄道会社によって多少異なるが、すぐ消えるのと、数秒後に消えるのがある。電車が通過した後の1〜3秒は非常に緊張する。もし消えなかったらどうしようと思っていると、やっぱり消えないのだ。せっかく消えたのに、ほぼ同時に反対向きの矢印がついたりする。ひどいのになると矢印が2個ずつ計4個あったりもする。これはイヤガラセとしか思えない。

いずれにしても山の手線が電車で繋がった場合、常に電車が通過しているので上記したような問題は発生しない。とにかく一日中遮断器が開かないのだから、いいかげん皆諦めて帰ってしまうはずである。また無理に渡ろうにも電車が通過しっぱなしでは渡れるはずもなく踏切事故も減る。

【理由その5】どこで停まるか。
【解決策】山の手線の駅の間隔は同じではない。従っていつどこで停車しても同じということになる。例えば2km毎とか3分毎にすればよいのではないか。ただし停まる毎に全部のドアを開けてしまうと、混雑時にホームでないところから多くの乗客が落ちてしまうが、幸い山の手線には大きな川を渡る鉄橋とかは無いので、落ちたら自力でまた乗るしかない。

ホームに接した部分のドアだけを開けるというのも一つの案ではあるが、恐らく電車はそういう構造にはなっていない。仮になっていたとしても、不幸な乗客は1日中乗っていても自分の車両のドアが開かないという状況になってしまう。とにかく自分が降りたいと思っている駅にこだわらず、近くのドアが開いた時にサッと降りてしまうのがコツである。

【理由その6】点検、補線をどうするか。
【解決策】必要はない。なぜならば一周の線路の直径と、車両全体の直径が同じであるからして、絶対に脱線はしないのである。脱線するということは、車両全体の直径が線路の直径よりも大きくなる、または小さくならなければいけない。車両は全て連結器で物理的に繋がっているので大きくなったり小さくなったりすることは不可能である。

これでおわかりいただけたと思うが、実際に分析、検証をしないで、己の経験と知識の範囲だけでの理論で物事を否定してしまうのは良くないことである。

天声人誤

メニュー




.