▼天声人誤

●飛ぶ

鉄腕アトムも鉄人28号もマジンガーZもガンダムもエヴァンゲリオンも実際に作ったとしても絶対に空を飛ぶことはできない。揚力がないからだ。飛行機も鳥も本体に対してかなり大きな翼があるわけで、これは重量が増えれば増える程重量に対する翼面積の割合も大きくなるのだ。

だからハエはあの体でもあの程度の小さな翼でよいのだが、鷲は体重5〜8kgで翼開長は2〜3mにもなるわけだ。

仮に人間が飛ぶ場合には体重50Kgとしても翼開長は10〜20mぐらいは必要になるだろう。一人乗りのグライダーが目安と思えばよい。ただし滑空だけだが。

だから天使なんてものはあの羽のサイズでは絶対に飛べないのだ。自力で離陸して舞い上がるためには羽だけではなく、その羽を羽ばたかせる桁外れに強力な筋肉も必要だ。

さらに高高度で長時間飛び続けるのは人間の肺の機能では不可能だ。渡り鳥の肺はクルマのエンジンでいうところの4サイクルになっていて、排気と吸気を同時に行えるようになっている。人間は2サイクルだ。

ペガサスに至っては、体重は400〜500kgはあるだろうから、翼長は50mぐらい必要だろう。航空機には内燃機関という強力な動力源があるわけだが、動物には内燃機関のような瞬間的なパワーを生み出す動力源はないのだ。羽ばたくにしろ、滑走するにしろ、現実的には500kgの動物が自力で飛ぶのは不可能であろう。

では翼が無いヘリコプターがなぜ飛べるかというと、ローターを回すことで強引に揚力を捏造しているからだ。あの方法はかなり強引だ。だからヘリはむちゃくちゃ燃費が悪い乗り物でもある。

実際、ヘリ自体が空を飛んで移動するよりも、ヘリをトレーラーに積んで陸送したほうが輸送コストは安いそうだ。

では冒頭のロボたちはどうか?もちろんロボなので強力な動力源は備えているだろう。しかしグレートマジンガーを例にあげれば身長は 25mで体重は32tだそうだ。旅客機では翼長50mとして重量(乗客や貨物を含めて)は80〜90tぐらいなので、この数字だけを見ればグレートマジンガーも飛べそうなものだが、航空機というものは飛ぶという機能に特化して作られたものだ。外装は極力薄く、軽く、設計されている。小型の飛行機のボディーは人間の力で強く押せば凹むこともある。

しかしグレートマジンガーは戦うことを目的として設計されている。ぺらぺらの外装ではなく、かなり厚みのある超合金でできている。そうすると果たして32tで本当に納まるのか?という疑問も生じるわけだ。ナノテクが実用化してプラスチックよりも軽く超合金より硬い金属を使っているとすれば別だが。

というかそれ以前に身長25mの金属のロボは2足歩行することすら困難なはず。片足を上げた状態で全体重をもう片方の足で支え、バランスをとるだけで精一杯だろう。もちろん敵のロボと格闘するなどというのはほど遠い。一度転んだら自力では起き上がれないだろう。

30cmのプラスチックの定規の先端に消しゴムを乗せて、定規のしなりを利用して消しゴムを飛ばしてみる。3〜5mぐらいは飛ぶだろう。ところが1mの定規で同じことをやろうとしても思いのほか飛ばない。定規も1mになると自重で弾性が鈍くなるのだ。

だからアリをそのままの形でゾウの大きさにすると絶対に歩けないのだ。無理に歩こうとすれば6本の細い足はボキボキと音を立てて折れるはず。

という具合にデカイものを動かすのは想像以上に大変なことなのだ。身長2m以上の巨人症の人が転倒して命を落すことがあるのも同じことだ。1.5mと2mでは意外にも大きな差があるのだ。

だから転倒したグレートマジンガーは、恐らくその転倒の時にもの凄いダメージを受けるはずであり、そのダメージに絶え得る設計にすると、より全体を強固に頑丈に作る必要があり、さらに重量が重くなるという悪循環になるわけだ。

鉄人28号に至っては身長10mで体重は100tだそうだ。さすが昔のロボットだ。なんせ鉄でできていて、表面はリベットでとめてるのだから仕方が無い。同時にこのようなメタボな体型ではグレートマジンガー以上に絶対に飛ぶことはできない。

少なくともグレートマジンガーには充分な揚力を得るにはほど遠いものの羽らしきものがあるのだが、鉄人28号はジェットエンジンのみだ。ジェットエンジン(ロケットエンジン)だけでは勢いは出るものの揚力は得られない。

ではなぜ宇宙ロケットが飛ぶかというと、あれは1回しか飛ばないことを前提に設計された燃料とエンジンのかたまりなのだ。アポロ計画で使われたサタン5型ロケットは全長85mで重量は2,800tもある。その大半が燃料であり、燃料を使い果たした筐体はブースターもろとも切り離して捨ててしまわなければならない。

ということは仮に鉄人28号にサタン5型並のブースターを搭載すれば大空高く上昇することはできるかもしれない。しかし胴体は大量の燃料が入るタンクとなり両足がブースタ−になるので、一度上昇したらすぐにガス欠になり、ブースター自体の重量で飛行は維持できなくなり、落下する、又はブースターと空の燃料タンクを切り離さなければならない。

つまり顔と腕だけになってしまうわけだが、この時点で大気圏から脱出して無重力状態になればいいのだが、鉄人28号の場合は昔のロボットなので宇宙に敵はいない。

従って戦うのは大気圏内に限られる。そうなると腕と顔だけの鉄人28号は揚力を維持するための翼がないので落下する以外に道はない。

であれば敵めがけて落下し、ついでに爆薬を内蔵していれば、それなりに敵にダメージを与えることができる。しかしそこまでの正確な位置に、あの真空管が入っているであろうアンティークな「リモコン」で誘導できるのかどうかは疑問でもある。となると、無差別な都市攻撃のような戦術でしか使えないわけだ。そうして開発されたのがV2号だ。

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